2023-10-31
最近は短波帯用の無線機としてICOMのIC7300を専ら使っている。これは簡素な構成のSDRトランシーバで安価ながら性能もよい。近年の短波帯は家庭やソーラー設備のインバーターの増加による人工雑音が溢れていて受信にも苦労する。最近は特に原因不明の短いパルス幅のノイズが増えてきた。パルス幅が10mS程度と短いが振幅は大きく、S9+20dB以上にも達する。これが十数秒間隔に1回くらいの頻度で発生するが、これまで古いアナログの無線機で受信していたときはあまり気にならなかった。しかしIC7300で受信すると受信障害が非常に明確になる。このオーディオ波形を観測すると、ワンショットのパルスノイズが入った瞬間にIC7300のAGC(Automatic Gain Control)が作動して利得を下げるのだが、発生したAGCのフィードバック電圧は時定数回路により、規定の時間保持される。例えば時定数2秒の場合、10mSという極めて短い時間のワンショットパルスノイズが入っても、設定時定数の約2秒間は無信号の状態が継続してしまう。つまり一瞬のパルスノイズが入ったらノイズの時間幅は10mSという短さであっても200倍の長い時間無音状態が続いてしまうことになる。最近の無線機のAGC回路は一瞬のパルスノイズが入ってもディジタル演算により規定のAGC電圧保持時間分確実にフィードバック電圧を発生させるため、このような問題が生じやすくなっている。昔のアナログ受信機では短いパルスノイズでは十分な制御電圧が発生できず、AGCのフィードバック制御電圧の持続時間も短くなるため無音状態は生じにくいという良さがあった。
IC7300でこの問題を回避するにはAGC回路の時定数をできるだけ短くするしかない。AGCの時定数設定は最小100mSとなっているので、この100mSにしてみると無音状態もかなり改善されてパルスノイズもあまり気にならなくなった。一方音声のSSB信号受信では信号に応じてゲインが瞬時に変わるので非常に聞きにくくなって使用に耐えない。CWやFT8などのデジタル信号であればAGCの時定数を短くすることで信号の消失がなくなり、有効である。
この問題の対症療法としては適宜AGCの設定時定数を変更することで凌ぐことができそうだが、恒久的にはメーカーの対応を希望したい。AGCは短いパルスが入った場合にはリリース時定数を短くし、通常のSSB信号のような長い変動周期の入力に対しては長いリリース時定数を持つようにする。つまりAGCの時定数を二重時定数回路にすることでこの問題は解決できる筈である。
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