バカの災厄
2022-12-01


池田清彦著:宝島社新書。頭が悪いとはどういうことか?著者が述べるバカとは自分の思考概念こそが正しくて他人も同じことを考えなければおかしいと考える人のこと。つまり自分が考える正義は絶対に正しく、他の人も同じ正義を信じなければならないと思い込んでいる人のことである。著者によれば人間は別のものを同じとみなす「概念化」と呼ぶ能力を持っている。例えば人は名前と本人とが同一であるという概念を自然に持っている。考えてみればリンゴが3つあるのもミカンが3つあるのも夫々は別の果物なのに同じ3つと捉えられる。この数の概念のおかげで数学が発達したというのをどこかで聞いた覚えがある。この概念化能力こそ人間を人間たらしめている知性の根源とも言えそうだが、もともとは抽象化して考えるいいかげんなやり方から始まっている。概念はこのいい加減さから生まれたものだが、これが絶対正しいと考えた時に色々な問題が生じてくる。
この社会や世界には色々な考え方があるのにバカは特定の考え方だけが絶対的に正しいと信じ込み、正しくて確かなものと思い込む。そうして自分の正義を主張することになると著者は言う。私も過去にそのような傾向はあったので読みながら反省した。振り返れば何度も間違う経験を積む中で自分の考えの浅さを認識し、違う考え方も多少は受け容れられるようになってきたかなというところか。そもそも絶対的に正しいことなどこの世の中には存在しない。科学的知見も時代を経て変わっていく。人間の考えなど元々いい加減なものなのだと認識すれば自分の正義に拘ることも無くなってくるというのが本書の主張。自分の考えの正しさに固執せず、多様な考え方に目を向けよと述べている。本書も後半には著者自身が固定概念に縛られているのではないかと思われるような所もあったが概ね面白く読めた。
[読書]

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